大学院で学習した中で、個人的に今後の実践に役に立ちそうな理論や書籍について書こうと思います。使い所をイメージできるように、教育の場面ごとに整理してみます。
今回は、日勤や夜勤などの日々の実践の中で役に立ちそうな理論を紹介します。
多分これが学習の場面で最も大きな割合を占めているのではないかと思っています。OJTに当たる部分かもしれません。研修などと異なり、実践している間は時間が限られています。その中で学習効果を高めるためにはどのようにしたら良いでしょうか?
ベナー ナースを育てる
新人のとき、一生懸命教科書を読んで、疾患や治療についてまとめたと言う経験は誰もが通る道かもしれません。ただ、あんなに時間をかけて勉強したのに、なぜか実践ではうまくいかない・・・。なんてことがあります。この本を読むとその理由がわかります。さらにどうやって相手に伝えれば良いかヒントがあります。
3つありますが、簡単に2つ紹介します。
重要性・非重要性の識別力を育成する
私たちは、ある程度の経験を積むことで、大事な情報とそれほど大事ではない情報を見分けることができます。
ある程度経験を積んだ人は、カルテに書かれていることを全て覚えているわけではありません。情報をとる順番や自分なりの優先する記載、注目する記載があるはずです。これが、初心者のうちは全てが大事に見えます。全部太字もしくはマーカーが引かれているような感じです。そしてカルテの情報量はとても多いので、このようなやりとりが頻繁に起こります。
- 先輩「これは確認した?」
- 後輩「すみません。確認します。」
これは、後輩が情報を取り逃がしているわけではありません。大事な情報とそれほど大事ではない情報の区別がついていないんです。同じような状況がベッドサイドでも起こります。
- 先輩「ドレーンは確認した?」
- 後輩「すみません。確認します。」
これも同じです。患者さんのベッドサイドも情報に溢れています。患者さんの表情や言動、環境、挿入物、ルートの固定などなど。どれが大事でどれが大事ではないかはそのときの状況によって異なります。そしてこの状況はとても複雑で、決してここまでは教科書に載っていないのです・・・。
だからこそ先輩は状況を整理して、その状況の中で重要なもの、さほど重要でないものを後輩が識別できるような関わりが必要になります。
臨床的想像力を育てる
これは簡単に言うと予測です。この先、患者さんの状況がどのように変化していくかということです。これができると、その日やるべきことが明確になります。
初心者のうちはその日のことで精一杯だと思います。これが中堅くらいになると、治療の過程全体の流れがなんとなくわかり、その中の今日という時点みたいな感覚で患者さんを捉えることができるようになります。
色々な予測があります。
- ここの血液データはどう変化していくだろうか?
- もし、合併症が起きたらどの指標が一番最初に異常値を示すだろうか?
- 今日はこんな状態だったけど、明日はどうなるだろう?
このように予測の立てられるような支援が必要になります。
ドナルド・A・ショーン 省察的実践とは何か/省察的実践者の教育
「行為の中の省察(reflection-in-action)」と「行為についての省察(reflection-on-action)」
特に、「行為の中の省察(reflection-in-action)」は実践することそのものが専門職としての「知」を生成するために必要と書かれています。実践中に以前経験した状況と似ている状況であると「見なす」ことや、それがうまくいかなくなることで自分の考えの枠組みを見直すことが、専門職としての「わざ(実践知)」につながります。
自転車の乗り方の説明書を見ても自転車に乗れないように、教科書の知識を詰め込んだだけでは、看護実践ができるようにはなりません。いくら組織のマニュアルが整備されていたって、それ通りにやることが正解でない場合があります。患者さんの背景が異なれば、マニュアルや教科書に書かれている注意しなければならない項目の優先度が変わるかもしれません。教科書に書かれていることと実践の間にある実践知こそが、専門職の「わざ」になります。
このように科学的な知識だけで問題解決をしようとしても複雑な状況に対応することができない。むしろ、問題設定の方にも目を向けるべきだとショーンは主張しています。
私たちは、「教科書を読んで勉強して」と言うだけでなく、教科書の使い方を説明しなければ、この専門職の「わざ」は伝えることができません。
省察的実習の視点「ついてきなさい」「協働実験」「鏡のホール」
ここでは省察を深めるためのコツについて支援者の視点から3つ書かれています。
ひとつ紹介すると「ついてきなさい」は、お手本とアドバイスです。省察の段階を、はしごで表現しています。
- 1段目は実践することそのもの。
- 2段目は実践について言語化すること。それに対してアドバイスをすること。
- 3段目はお互いの関係性に目を向けること
- 4段目は使っている言葉が同じ意味であるか確認すること。
このはしごを登ったり降りたりしながら支援することで省察が深まるとされています。
特に3段目以降を意識したいです。この場を逃れようと思って相手にとっての正解を言おうとしていないかなど、臨床の場面ではよく見受けられます。
4段目は、例えば「循環動態」「呼吸状態」「全身状態」という言葉の意味は先輩と後輩で一致しているでしょうか?注意しなければならない観察の指標は状況によって異なるはずです。
バラス・スキナー 徹底的行動主義
これは説明するのも理解するのもとても難しいです。しかも、歴史的に看護からも教育からも嫌われる考え方です・・・。ただ知っていると世界が変わります笑
教育を取り巻く学習理論の多くは、認知主義とか構成主義とか言われます。頭の中にある考え方や社会の状況などが背景にある考え方です。行動主義は、頭の中をあえて無視するような考え方です。観察可能なもの(行動やバイタルサインなども含まれる)を学習の結果とするような考え方で、これの批判から認知主義や構成主義という考え方が主流になってきました。
「ネズミがレバーを押すと餌が出てくる」という箱を使った実験から構築された理論になります。
ペットのしつけや、イルカの調教などにも使われる理論です。動物と人間を同じにするな!と言う声が聞こえてきそうです・・・。これをオペラント条件付けと言い、パブロフの犬のような古典的条件付けとは区別されます。古典的条件付けでは、ある状況下で必ず起きる(学習が成立する)が、オペラント条件付けでは、ある状況下で行動の発生頻度を高めるとされています。
相手の行動を強化するという考え方になります。褒めて伸ばすなどもこの理論で説明できます。
ただ、本来は相手をコントロールしてやろうということではなく、相手が生きやすくなるために環境を整えるということなんだと思います。看護師っぽくいえば、究極の環境整備です。私は、環境整備の「環境」の中に「自分」を含めると解釈しています。自分自身の言動はもちろんのこと、自分という存在自体が相手の何かしらを強めたり弱めたりしている。または自分も、自分を取り巻く環境(人も物も)に強められたり弱められたりしている。という考え方です。
相手のモチベーションを高めたいと思った時、相手の思考を変えてやろうということは高確率で失敗します。説得も同じです。
相手が何を考えているか、考えることは大切ですが、ときには考えすぎるのもあまり意味のないことなのかもしれません。自分だって何考えてるかわからないときがあるのに、相手の考えていることを正確に理解できるわけがないんです。そんなときは相手の行動をじっと観察していると何かアプローチできることが見つかるかもしれません。
いつかできるだけわかりやすくブログに書いてみたいです。
状況に埋め込まれた学習 正統的周辺参加
ここからはあまり詳しくありません。まだまだ勉強しなければいけないと思っています。
私の解釈を簡単にいうと、「本物の活動に参加することこそが学習である。」ということです。
例えば、看護師として組織に所属し働くことが、看護師としての学習であるといった具合です。
私の経験をお話しすると、新人のときに受け持ち患者さんが多い状況に対応できず、ミスしてしまうことも多くなったため、患者さんの受け持ちをやめて、保清ケアや点滴作成などの仕事を任せることにされた後輩をみたことがあります。多分これでは、保清ケアや点滴作成のスキルは身についても、多重課題への対応や優先順位の判断のようなスキルは身につかないんだと思います。その後輩は1年後、受け持ち患者さんを担当することができていましたが、これはきっと効率の悪い方法なんだと思います。
患者さんへ何かしらの影響が出てしまうのであれば、仕方がないこともあるかもしれません。そうさせないという、組織の力量が問われる部分がありそうです。
まとめ
日々の実践で自分が使えそうだと思った理論を簡単に紹介してみました。今後それぞれについて、もっと詳しく説明していきたいと思います。
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