「報告・連絡・相談ができること」を支援する

新人教育

私が新人の時、独り立ちするための目標に「報告・連絡・相談ができる」が挙げられていました。私の経験上ですが、「報告・連絡・相談ができること」は新人教育の中で課題として取り上げられやすい問題のように感じます。

でもこれって、簡単なように見えて実は難しくないですか?前はできてたのに、だんだんできなくなっていく・・・ってことはありませんか?

今回は、報告・連絡・相談がどうしてうまくいかないか考えてみたいと思います。

先に結論をいうと、私は「できていることを伝えること」「報告・連絡・相談ができること」の支援に大切な視点であると考えます。

この記事は、新人看護師に関わる方に向けて書きます。この記事を読むことで、新人教育において報告・連絡・相談を支援するための自分なりの方法について考えることができると嬉しいです。

報告をめぐるやりとり

固定チームナーシングを採用しているある病棟で、新人看護師が先輩のアドバイスのもとこんな目標を立てました。

新人看護師にとって少しレベルが高い目標かもしれませんが、一番大切な目標の共有はチーム内でできているとします。この病棟では、リーダー看護師への定時報告が設定されています。この定時報告だけでなく、上記の状況になった際はいつでも報告するようにと目標の共有をしました。

報告の暗黙知

暗黙知とは、経験などによって積み重ねられた知識で言語化するのが難しい知識のことをいいます。私が実際にみたことのある場面にはこんな場面があります。

報告しようと思ったら先に報告している人がいたので、別の仕事を先にしようとした結果、時間通りに報告できていないと言われてしまった。報告しようと思ったらリーダーがいなかった。報告はできたけど、内容について叱責されてしまった(この後報告の回数めっちゃ減ります)。

このように報告することには、

  • 先輩の顔色を伺うこと
  • 順番を待つこと
  • 忙しさなどの空気を読むこと

などの状況をとらえることの複雑さが含まれています。

私たちは、このような経験を繰り返しながら、知らず知らずのうちに、なんとなく先輩によって好ましい声の掛け方や、話しかけるタイミングなどを暗黙知として蓄積しているんだと思います。

神経症(ノイローゼ)の研究

上記のような場面をみたときに、心理学の授業で出てきた神経症の研究(※100年以上前の実験)を思い出しました。

パブロフの犬ってご存知でしょうか?条件反射などで有名な、エサを目の前にすると唾液がでる犬です。そのパブロフの犬を使った実験です。

パブロフの実験神経症の概要

実験の概要はこうです。まず、「正円の時は餌を与える」「楕円の時は餌を与えない」ことを繰り返し、唾液の分泌を学習させます。徐々に楕円を正円に近づけていくと、ある一定のところで、一度は学習が成立するものの、すぐにできなくなってしまい、その後も学習しずらくなるというものです。またこのときに、実験室にいくことを嫌がったり、実験台の上で吠えたりなどの神経症的な症状が出現したという実験です。

この実験から、神経症になる要因は「回避できない葛藤状態や競合する選択肢のいずれかを選択することが著しく困難か不可能な状態が長引くこと」と言えます。(※100年以上前の実験です。)

報告をめぐるやりとりとの類似点

報告の場面をもう一度思い返すと、同じような報告の内容やタイミングでも、その時の状況によってうまくいったり、うまくいかなかったりすることがあります。(看護実践も教育も似たようなところがあります。)つまり、報告に関する暗黙知を獲得しなければ、新人看護師は報告のたびに葛藤状態に晒され続けているのかもしれません。もう一つ考えられるのは、このような葛藤状態を避けようとして、新人看護師が先輩にとっての正解を言おうとすることです(学習が制約されてしまいます)。

実際に最初のうちは報告・連絡・相談ができていたのに、だんだんできなくなってくるってことは経験したことはありませんか?それは、就職してから時間が経ち、私たちが求めるものが多くなっているのかもしれません。もう一方で、このような葛藤状態に陥っていることが原因かもしれません。

「何やるにも怒られて、もうどうしたらいいかわからないです。」の状態ってすごく悲しいです。

報告・連絡・相談がうまくいくためには

「報告・連絡・相談ができること」を支援するためできることは何でしょうか?空気の読み方を伝えるとか、先輩の顔色を伺うように伝えるとかも一つの方法かもしれません。

ちなみに上記の実験で神経症になった犬の治療方法は、実験を中止し「長い期間そのまま静かに暮らしてもらう」です。ここまでいく前に解決したいです。

私が考えたのは、「できていることを伝えること」です。

例えば、上記の場面で考えるとすると、「報告しようとしてたよね。」「席を外してて報告したかったのに報告できなかったかもしれないね。」「報告してくれてありがとう。次は内容も考えてみようか。」、「怒られちゃったかもしれないけど、報告は時間通りにできていたね。」などの声かけができると思います。このようなやりとりはリーダーでなくても、周りのスタッフが気づいてフィードバックできるかもしれません。

このように「できていることを伝えること」は、周りの状況が変わったとしても、正円と楕円の区別がつくような支援になると思います。

まとめ

報告・連絡・相談だけでなく、状況によって正解が異なることや、はっきりとした正解がない状況が、私たちの仕事にはたくさんあります。この状況に注目することは、看護においても教育においても非常に重要だと思っています。何かと結果に注目しがちですが、この周囲の状況について整理してみると新しい発見や学びにつながるかもしれません。

新人教育において報告・連絡・相談を支援するため方法について、何か新しい視点につながれば嬉しいです。

参考文献

久保田新, 桐谷佳恵, 鎌倉やよい, 江藤真紀, 岡西哲夫. (2003). 医と心を考える臨床行動心理学の基礎ー人はなぜ心を求めるかー. 丸善出版株式会社. p284-288.

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