今回は各病棟の新人教育において中心的な役割を担う教育担当者について私の経験と反省を踏まえながら書きたいと思います。
この記事は教育担当者を初めて任せられた方、教育担当者を経験したことがある方、今後教育担当者をしてみたいという方、病棟の教育についてなんとなく不満があるという方に向けて書きます。
この記事を読むことで、自身が所属する部署の教育内容について改善点を考えることができれば嬉しいです。
結論からいうと、私が教育担当者として一番重要だと思っていることは、「目指す姿の共通理解」です。新人看護師が1年後どのような姿に成長することを支援するのか、病棟のスタッフ全員が同じ認識になるようにリーダーシップを発揮すること。これが教育担当者として一番重要だと考えています。
教育担当者とは
まず、教育担当者について確認します。新人看護職員研修ガイドラインを見ると
教育担当者は、看護部門の新人看護職員の教育方針に基づき、各部署で実施される研修の企画、運営を中心となって行う者であり、実地指導者への助言及び指導、また、新人看護職員へ指導、評価を行う者である。看護職員の模範となる臨床実践能力を持ち、チームリーダとしての調整能力を有し、教育的役割を発揮できる者が望まれる。教育担当者の配置は各部署に1名以上とすることが望ましい。
と記載されています。
私が特に重要だと感じる場所を太字にしました。各部署での教育は新人教育の多くの割合を占めています。教育担当者は病棟の教育の方向性を決める上で、大きな役割を担っていると言えます。
みなさんが所属する病棟でこの役割を担っている方はどのような人でしょうか?副師長などの中間管理職の方が担っていることが多いのでしょうか?
教育担当者としての私の経験
それまでの新人教育について
私が教育担当者になったのは、看護師として6年働いた後に中間管理職となった初めの年でした。
病棟でそれまで行っていた教育方法は「早く新人看護師を1人前にする」を目標に
- 新人スケジュールパスの活用
- 看護技術の経験チェックリストによる振り返り
- 勉強会の参加
- 事例報告(1年間に1件)
新人スケジュールパスは、1対1で支援を行うプリセプターシップ期間の3ヶ月間の予定を記載し、受け持ち人数や患者重症度の目安と日勤独り立ち、夜勤開始までの流れについて新人看護師や実地担当者がわかるようになっています。
看護技術の経験チェックリストによる振り返りは、看護技術がマニュアル通りにできたか確認し、2人の先輩からサインをもらうとその技術は独り立ちというものでした。
私の問題意識は、
- 何度言っても新人ができるようにならないと先輩がよく言っている事
- これにより先輩も新人看護師も苦しんでいるところをよく見ること
- 勤務終了時の振り返りに時間がかかる
ということでした。でも心の底は、
- 今までの先輩のやり方が漠然と嫌いだったこと
- 学術集会に参加した時に紹介されていた新しい方法を試してみたいと思ったこと
- 今なら役職の力を使って試すことができるということ
だったように思います。これが後の失敗につながります。
教育担当者としての取り組み「思考発話」を活用した支援
私が取り組んだのは、主に「看護技術の経験チェックリストによる振り返り」についてでした。
それまでは、「技術ができたかどうか」を確認する教育方法でしたが、自分の考えをそのまま伝える「思考発話」を中心とした教育方法に変えるよう統一しました。また、思考発話の例として、臨床判断モデルを提示しスタッフに説明しました。勤務終了後の振り返りの内容は先輩スタッフに任されていましたが、振り返る場面を最も重要だと思う1場面とし、ラサター臨床判断ルーブリックを使い、フィードバックするようにしました。
看護技術チェックリスト自体は残しましたが、あくまで経験の有無を確認することとし、チェックリストにサインがあっても、患者の状況によって注意する点が異なるため、実施前に相談することとしました。
大きな変更であったため、師長と話し合い以下のアドバイスをもらいました。
組織で何か大幅な変更をするときは
- 徹底的に周知する
- ダメだった時の保険を考えておく
- ダメと判断する基準を決めておく
具体的には、最初の1ヶ月間スタッフが混乱していないか確認し、うまくいっていないようだったら元の方法に戻すことを約束しました。周知は全スタッフに直接伝えられるように、毎朝5分程度時間をもらい企画の要点について周知をしました。さらに変更点や振り返り例をまとめたファイルを作成しいつでも閲覧できるようにしました。ラサター臨床判断ルーブリックを用いた振り返りは、実際にスタッフ同士で何度かトライアルしてもらいました。
この後、取り組み自体は軌道に乗り混乱もなく進んでいきました。
教育担当者としての取り組みの結果
教育方法自体は組織に浸透しました。先輩後輩間だけでなく、スタッフ同士のコミュニケーションの中で思考発話がされているように感じました。また、自身の考えを言語化するということは、他職種間でも役立っているように見えました。臨床判断は組織文化の影響を受けるとタナー(2006)が述べているように、フィジカルアセスメントや病態生理を大切にする病棟だったこともあり、予測していなかった急変の件数が激減しました。
しかし肝心の新人看護師はというと、振り返りの時間もやっぱり長く、当初の予定通り独り立ちできない新人看護師もいました。ルーブリックの点数を集計したりもしましたが、点数が上がっている様子もありませんでした(この頃はルーブリック評価がどんなものかも曖昧なまま使っていました。本当に反省・・。)。
これらの結果は私の印象でしかありません。なんとなくうまくいった感覚はあるものの、どう証明すれば良いかわからずにいました。師長には「取り組んでまだ1年だ、成果が出るには時間がかかると思う。どのくらいかかると思う?」と聞かれたので、私は「この教育方法で育った新人看護師がプリセプターになる時だと思います。3年くらい。」と答えました。
私の病棟での教育担当者は1年ごとに中間管理職の中で交代だったため、取り組み自体はこの後も引き継がれ、少しずつ改善しながら今も続いています。
この取り組みの反省
「成果が出るには3年くらいは必要だと思う。」と言ったものの、結局どうすればよかったのかわからなくモヤモヤしました。この取り組みはスタッフの協力があってこそできたことでした。中間管理職として本当に未熟な私の提案を聞いてくれたこと自体嬉しかったし、先輩も後輩も頑張っている姿をみていたので、スタッフみんなが頑張ったことを証明したかった・・・。結局私のモヤモヤが晴れることはなくこの取り組みから2年後に大学院に進学しました。大学院に入って痛感しました。この頃の自分は本当に教育に対して無知でした。
この取り組みの問題点は、目標設定と評価にあります。
私は、教育の方法に着目するばかりに目標設定と評価を十分に検討していませんでした。
この取り組みを始めた時の目標は「早く新人を一人前にする。」評価は「年度末までに全員が独り立ちしたか。」でした。
まず目標にある「早く新人を一人前にする。」では、早くとはどれくらいの時期をさすのか、この組織にとって1人前とはどのようなことをいうのか、ということをスタッフ全員がなんとなくのイメージしかなかったということです。
特にこの組織にとって1人前とはどのようなことをいうのかが重要です。
これはインストラクショナルデザインにも出てくるADDIEモデルの「Analysis(分析)」にあたります。また、逆向き設計論の1段階目に相当します。
気をつけなければいけないのは、「組織にとって」というところです。教育に対する個人の価値観はそれまで受けてきた教育背景によってさまざまだと思います。これを合わせるのは非常に難しいと思います。そこで、組織の理念をもう一度確認することが重要です。組織に所属している以上ここは揺らぎません。組織理念は組織に所属する全員が目指すべき価値観と方向性なのです。もう一度新人看護職員研修ガイドラインをみてみると、「教育担当者は、看護部門の新人看護職員の教育方針に基づき、各部署で実施される研修の企画、運営を中心となって行う者であり〜」と書いてあります。まずは看護部門の教育方針を確認することが重要です。この看護部門の教育方針や看護部の理念などを元に、病棟ごとの理念や目標、ビジョンなどがあるはずです。なければ、ここから考える必要があります。
これをもとに、病棟で求められる1人前の姿とはどのような姿か、病棟で大切にしている考え方は何か、優先されることにはどのようなことがあるかなど具体的にできるだけ細かく考えてみて、スタッフ同士で共通の認識になるまで対話してみるということが重要です。
逆にここができていれば、評価も方法もそれほど難しくないと思います。
次に評価をみてみます。「年度末までに全員が独り立ちしたか。」でした。これは評価のしやすさから言えば申し分ないですが、少し短絡的かもしれません。まず、「独り立ち = 一人前」なのか考える必要がありそうです。さらに「独り立ち」の共通認識も必要です。これは目標設定なので、もう一度目標設定に戻る必要がありそうです。
教育評価についてはまた別の機会で詳しくブログに書きたいと思っていますが、評価方法は複数あったほうがいいと思います。例えば「独り立ち」の基準はテストやチェックリストでの測定だけで可能でしょうか?観察可能な項目だけでなく、「どう考えるか」など概念的に捉えることも重要です。
次に教育担当者になるときに向けて
私は8年間同じ病棟で勤務しました。長い間同じ場所で勤務すると自然に病棟での価値観などが身につくのだと思います。それゆえに自分たちが大切にしているものについて暗黙になり言語化されにくくなるのかもしれません。新しい部署や組織に配属が変わった際はここに気づくチャンスだと思います。私は4月から新しい部署で勤務するので、まずはこの病棟で大切にされている価値観についてスタッフと関わりながら少しずつ明らかにしたいと思っています。
まとめ
教育担当者として一番重要なのは、「目指す姿の共通理解」です。そのためにはスタッフとの対話が必要だと思います。
少しズレますが、まずは行動してみるということも大切なんだと思います。私にとっては反省することも多い経験ですが、経験したからこそわかることもたくさんありました。教育には唯一の正解はありません。日々省察し少しずつ改善できるところを模索していき、実践知を積み重ねていくことをこれからも続けたいと思います。
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