新しい環境で学び直すためのコツ 部署を異動する後輩に向けたメッセージ

その他

先日、私の大切な後輩が部署異動をすることになった。8年間同じ病棟で頑張った彼に、少しだけ先に部署異動を経験した私の持論を寄せ書き代りに贈った。

今回は新しい環境で学び直すためのコツとして、私たちがどのように学習してきたか紐解いてみたいと思う。

はじめに

部署異動や転職をすると、「今まではできたはずなのに、どうしてこんなにできないんだろう。なぜうまくいかないんだろう。」「もっとこうしたいのにうまくいかない。」と思うことがある。

この思いをもう少し詳しくみてみる。部署異動で経験したことのない診療科の患者さんを担当することは難しいと思うのは当たり前のことだと思う。しかし、それだけでなく転職等でこれまでに経験したことのある診療科の病棟へ行ったときも、なぜかうまくできないのである。

これにはいくつか理由が考えらえる。例えば、物品の場所や使用している物品の違い、病棟の構造の違いなどでも、今まで当たり前にできていたことに時間がかかるようになり、見落としも増えてしまう。

それだけなら良いが、スタッフが苦戦を強いられている私たちを見て「あいつはできないやつだ。要注意だ。」とレッテルを貼られてしまうことで、さらに「こんなはずではない。」「やめてしまいたい。」と思ってしまい、焦った結果、また失敗してしまうという悪循環を生んでしまうかもしれない。

物品の場所や病棟の構造についてはある程度すれば慣れると思う。これは気にしなくてもいい。勉強しなくてはいけないこともたくさん出てくると思う。それについても勉強すればいい。ただそれだけでは、「今まではできたはずなのに、どうしてこんなにできないんだろう。なぜうまくいかないんだろう。」を解決できないかもしれない。また、どうしても譲れない「ここはこうしたほうが絶対いいのに!」ということも出てくるかもしれない。

そこで、これらの思いを解決するために自分たちがどのような経緯で成長してきたか、少し紐解いてみたいと思う。がむしゃらに頑張ってきた自分たちの暗黙知を伝達可能な実践知に変え、自分たちが認識できれば、きっと効率よく新しい組織で成長し、活躍できるはずである。それは必ず患者さんや新しい組織のためになる。

一人前から達人までの過程

一人前の看護師とはどのような特徴があるのか。ベナー(1984)は、「似たような状況で2、3年働いたことのある看護師の典型であり、意図的に立てた長期の目標や計画を踏まえて自分の看護実践をとらえ始める時、看護師はこのレベルに達する。」と述べている。つまり、現在の状況や将来の状況を見据えてどの局面が最も重要でどれがさほど気にしなくてよいかわかるようになるのである。さらに、中堅になると局面の認識ではなく、経過全体の把握ができるようになり、また達人になるとより直観的になり判断や思考の速度も上がる。

臨床判断モデル(タナー、2006)をもとに言い換えると、一人前から達人になるにつれて、経験により【背景】が積み重ねられ、【気づく】ポイントが整理され【解釈】に時間がかからなくなるのである。

同じ病棟で8年間勤務した後輩であれば、実践力は中堅または達人レベルになっていると考えられる。これが部署異動に伴い、臨床判断の一部が一時的に一人前より前の段階に戻ってしまう。きっと予測が難しくなり、思考の整理に時間がかかるようになる。

一人前とスタッフから認められるにはどのような経過を辿るのか

自分たちが後輩にしてきたように、新しい組織でも使う言葉の認識が一致しているのか(収斂しているのか)確認されるはずである(※直接確認されない場合もある)。

例えば報告などで「変わりないです。」「循環動態に注意です。」の認識が本当に一致しているのかなどがある。自分たちもよく、「何を観察したの?」「どうしてそうしたの?」などの発問をされたし、してきたと思う。これらの発問により言葉の収斂を行ってきたのである。

注意しなくてはならないのは、自分の方が年齢が高い場合や役職があると、このやりとりが省略されてしまうことがあることである(この場合でも日々のケアや仕事の的確さ、患者とのやりとりなどから暗黙的に他スタッフに確認されているはずである)。

新しい部署で仕事が完璧にできることスタッフに示すことは難しいと思う。よって、直接確認されない場合は自分から言葉の意味を収斂するやりとりをしなければいけない。言い換えると、自らフィードバックを受けに行かなければならない。

具体的にはどのようなやりとりが効果的か、どこに注目すべきかを列挙する。

1、焦点を当てるべきポイントや組織・個人の価値観を反映しているものに注目する

継時記録の記載内容、よく使われる言葉、組織特有の言い回し、報告する際の順番(大事なことや焦点を当てるべきポイントから報告しているはず)

2、大きい言葉が表す意味を探る

循環動態、心機能、呼吸状態、全身状態、経過観察など、具体的に何で評価してるか、何をみているのか尋ねる。どのような経過を辿るか尋ねる、頻度を確認する(よく起きるのか、珍しいのか)。どこから変化するのか、変化のスピードがどのくらいなのか確認する。

3、何を見て勉強しているのか探る

教科書なのか、論文からの知見なのか、ガイドラインなのか、またそれらにどのように記載されていたか

臨床判断の思考発話とこれらのやりとりを通して、使う言葉の意味が収斂されていく。また、自己学習の内容も、より実践に活用可能なものになるはずである。

上記を臨床判断モデルと照らし合わせてみると下図のようになる。

ポイントは【気づく】の前にある【背景】である。【背景】を上記のコミュニケーションによってすり合わせることで、一度の経験からより多く気づける(予期もできる)ようになる。

図 タナー(2006)の臨床判断モデルと予測さる困難、対応

【背景】は組織の価値観を反映していることもある。しかし、暗黙になっている場合があるため言語化することで、自分だけでなく、相手にとっても価値観を認識し学び直しを促す機会になり得ると考える。そして、ある程度スタッフと言葉の意味が収斂されると真に組織の一員として認められるはずである。

まとめ

部署異動は困難も多いが、自分の信念など今まで暗黙になっていた価値観に気づくチャンスである。譲れない価値観もあると思う。全て新しい組織に染まる必要はない。重要なのは、自身の価値観を新しい組織のスタッフの価値観と少しずつ照らし合わせ、向き合うことである。それは大きな成長のきっかけになり、何より自分と組織の学び直しにつながる。そして必ず患者のためになるはずである。 どのような環境にいても学習者として自律し、自分を磨き続けられることを願う。

引用文献

Benner, P. E. (2005). ベナー 看護論 新訳版:初心者から達人へ (井部俊子訳) . 東京:医 学書院. (原著発行年 1984) .

Tanner, C. A. (2006). Thinking like a nurse: A research-based model of clinical judgment in nursing. The Journal of Nursing Education, 45 (6), 204-211. doi:10.3928/01484834- 20060601-04

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