「調べてきて」の上手な使い方を考える モヤモヤしたまま働かせていませんか?

教育方法

新人看護師教育が始まって1ヶ月が経ちます。至る所で「調べてきて」という先輩からの声が聞こえていませんでしょうか?レポートを課したりなんてことも聞いたことがあります。

「調べてきて」は新人教育だけでなく、基礎教育などあらゆる場面で使われている身近な言葉のように感じています。

今回はこの「調べてきて」という言葉に着目して、教育場面を振り返ってみようと思います。

この記事は臨床での実地指導者や基礎教育の教員など、教育的な関わりをする立場の人に向けて書こうと思います。

この記事を読んで、何気ない普段の関わりについて自分なりに思い返してみることができると嬉しいです。

私個人の「調べてきて」に対するイメージ

「調べてきて」という言葉を使い、わからないまま働かせようとしている場面を見たことはないでしょうか?

私は「調べてきて」という言葉に苦い経験があります。

私が看護師として働いて2年目くらいのときその日担当していた患者さんの呼吸状態が悪くなりNPPV(非侵襲的陽圧換気)が必要になり、人工呼吸器を装着することになりました。人工呼吸器を見るのが初めてだった私は、慌ててリーダーの先輩看護師に自分が当時持っている知識の範囲でモニターに表示される値の意味について質問しました。そのとき言われたのが「調べてきて」という言葉です。

私は先輩に「今わからないと患者さんをみることができません。」と言いましたが、「いいから調べてきて」と繰り返されました。先輩も何やら手に教科書のようなものを持っていたので、先輩もわからないから(はっきり正解を言えないから)調べてきてという言葉を使って逃げているのだろうと思いました。

このように、自分の答えに自身がないときに「調べてきて」という言葉を使ってその場を逃れようとすることは、あまりよくないように感じます。そして、はっきり言えることは、わからないまま働くのは患者にとって不利益であることは確かであるということです。

後輩から質問されて、もしわからなければ、私もわからない(自信がない)と言って一緒に調べるか、他の人に聞くなど、そのとき患者さんに不利益がないように対処するのが先輩やリーダーの役割だと思います。もしかしたら調べ方がわからないのかもしれません。

自分自身の学び直しの機会にもなります。

「調べてきて」と言いたくなる学習支援者の気持ち

先輩が「調べてきて」と使う場面にはどのような場面があるのでしょうか。また、どんな意図があるのでしょうか。

私が見たことがある場面では、

  • 勉強しているか知識の確認をしたい場合
  • あまり優先度が高くないから後で調べておいてという場合
  • これだけは絶対逃せないからいますぐ調べてから患者さんのところへ行きなさいといった場面など

があります。いずれにせよ学習拘束を避けるためにも「調べてきて」というこちらの意図を伝えることが重要だと思います。

学習拘束についてはhttps://sodate-nurse.com/syonnoseisatutekijissyunositen/参照

このとき、後輩がなんとなくモヤモヤしたまま患者さんのところに行っていないか、ということに是非

着目して欲しいです。

モヤモヤしたまま働いた結果?ある新人看護師の例

例えばこんな朝のやりとり

後輩「この患者さんは、腹壁瘢痕ヘルニアで、術後なので出血とか合併症がないか確認していきます。」

先輩「うん。腹壁瘢痕ヘルニアってみたことある?」

後輩「う~ん。あんまりなかったかもしれないです。鼠頚ヘルニアはあったとおもうんですけど。」

先輩「そっかぁ。そしたらちょっと勉強しなきゃね。」「時間があるときに調べておいて。」

後輩「わかりました。」

後輩はなんとなく術後の注意するポイントについて触れているが、先輩看護師のアドバイスを聞いて足りないことがあったのだろうか?という思いで、患者さんのところへ行くのだろうと考えました。

実際にこのようなやりとりの後に、新人看護師が前の日はできていたことが、次の日はできなくなるような場面(パフォーマンスがなんとなく落ちているような印象を受ける場面)を何度か見たことがあります。

きっと後輩は、先輩から「調べてきて」と言われたことに対して、帰宅後に調べてくれるだろうと思います。しかし、そのとき患者さんとのやりとりから学べることは制限されてしまうように見えます。

これをショーンの言葉を借りて言い換えると、行為の後の省察(振り返って学習する)につながるやりとりであるが、行為の中の省察(行為を通して学習する)は制約されてしまうと言えないでしょうか?

どちらの学習も大事にするのであれば、患者さんを理解する上で最も重要なポイント、または優先されるポイント焦点を当てるべき問題)について伝え、経験できた上で教科書などで、今回経験したことがどのように記載されているか確認してもらうことが、効率がいいように思います。

特に新人看護師とベテラン看護師の違いは、焦点の当て方にあります。

ベテラン看護師は状況に合わせて、患者さんに最も必要なことについて焦点を当てて観察できますが、新人看護師は網羅的に状況を把握する(焦点が絞れず、全て重要に見えてしまう。)ことが特徴にあります(ベナーの重要性・非重要性の識別)。

そして多くの場合、教科書も網羅的に書かれています。

経験した状況では教科書のどこの部分が強調されていたかを確認することで、少しずつ状況に合わせて焦点を当てなければならない部分について経験を積み重ねていくことができると思います。

レポートなどの課題を課すことに効果はあるのか?

「調べてきてもらう」場合にレポートを課している先輩を見たことがあります。

要点をまとめたり、関連図を書くことは思考の整理になると思います。

ここで気をつけなければならないのは、いいレポートがかける能力と実践能力は必ずしも同じ能力ではないということです。

レポートがほとんど教科書の写しになっている場合などは、先程の焦点をあてるという思考を辿ることが難しいままになってしまいます。

さらに、気をつけなければならないのは、課題を出す目的と評価を適切に行うということです。

なんのために何を調べるのか(まとめるのか)、何ができたら合格なのかということです。課題を課す先輩自身がこれらを明確にして、確実に適切にフィードバックを行うということがされないのであれば、後輩の労力が報われません・・・。

このように臨床では教育者側が意図を明確にしないまま「調べてきてほしい」を多用している現状があるかもしれません。

実践の前提となる知識だけでは、うまく実践することができないかもしれず、後輩からすると、「調べてもわからないから、勉強したくない。」と感じてしまうかもしれません。また、「調べてほしい」といったことに適切にフィードバックがなされなければ、「調べてほしい」に対して「先輩に見せるものを作る」という新たな学習拘束に至る可能性もあります。

これを避けるためには、調べてきたことを活用できるような発問(「教科書にはどんなふうに書いてあった?」など)をすることが有効かもしれません。誰かに「調べてきて」と言われて、フィードバックを受けずそのままになっていたとしても、実践で活用できるように報告時などに発問の中で引き出すことで、「先輩に見せるもの」から実践に活用できることに捉え直す機会を提供できると考えます。

まとめ

「調べてきて」という言葉を使うときは、モヤモヤした患者さんのところに行っていないか、注目してみて欲しいです。

モヤモヤしたまま患者さんのところに行くことは、患者さんの不利益につながる可能性があり、実践からの学びを制約してしまうかも知れません。

実践から学べることはたくさんあります。まずは最も学習の時間が長い実践での学びを最大にすることを考えてみてはどうでしょうか?

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